第10回


第 10 回
                                    須 永  慶



      《 予 感 と 予 知 能 力 》


 楽しかった芸能学校の生活も卒業公演と共に終わってしまいました。

「あれッ・・・えぇ?もう・・・」

という感じで終わっちゃたというのが初めに感じた、正直な印象です。
そして次に「何か身についたんだろうか・・・?」という大きな不安がありました。

しかし様々な感情と共に現実は時間と共にドンドン過ぎていってしまいます。
でも俳優になるためには、家族に対し、
卒業後も引き続いて俳優になれる可能性を見せていかなければなりません。
そういう姿勢をきちんと見せるためにも、兎に角、間を開けずに
何か具体的なことをしなければなりません。

手っ取り早い方法としてはまた同じような養成所か何かに入り直すことです。

それももっと良いところへ。


当時東野英治郎さんや小沢栄太郎さん、仲代達矢さんや平幹二朗さん、
市原悦子さん等が所属していた劇団・俳優座と
杉村春子さんや荒木道子さん、北村和夫さん達がいた
劇団・文学座の二大劇団がありました。

そこの俳優さん達はマスコミにも頻繁に出演しているので、
いやでも私達のような立場の者にとって魅力的に写っていたのは当たり前のことでしょう。
当然私も、最終的にそういう劇団の附属養成所に入る以外に、
もはや生き延びる道はないと思い込んでいました。

しかしこの二つの養成所はその頃、俳優になるための登竜門でしたから、
試験合格の確率は、限りなく低いと、自分を良く知っている私は
非常に悲観的な観測をしていました。

が、
それでも一応、芸能学校卒業半年前から自分なりに勉強をし、
対策というか、集中力を付けるというか、『備え』はしていました。

 さて、先ず、俳優座養成所に願書を提出、受験票を受け取り、受験番号を見た時

「むッ!これは縁起が悪い!・・・」。

わたしは悪い予感にとらわれてしまいました。
そこにあった番号は「二四九」と書かれていたのです。
「えっッ!この番号のどこが縁起が悪いんだ・・・?」
大多数の方はこのように思うでしょう。

しかし当事者の私はこれを、「四(死)と九(苦)が二倍!」と読んだのです。

「あァ~、こりゃもう駄目だ・・・」

ただでさえ難しいと思っているところへ、追い打ちを掛けるように縁起の悪い番号が
・・・何という巡り合わせだ・・・。
私がかなり落ち込んだことは言うまでもありません。


 俳優座養成所を受験したとき、一番驚いたのは、一次試験の永いことでした。
午前中五十人、午後五十人の割合で一週間以上続いたからです。


千数百人いた受験生はここで、約百人余りに減らされました。

二次試験も一次と大体同じで、演技試験としてパントマイムや朗読、
音感、リズム感、歌一曲、一般常識試験と演劇や文学に関する試験、
作文「私について」、面接試験と
次から次に受けていきました。


そして、いよいよ、発表の日。


合格者(ほぼ男女同数の三十六人)の番号が張り出されるのです。
私の番号は「二四九」番、 あの縁起が悪い「二四九」番です。

一人で見に行った私は、一つ一つ確かめていきました。
すると、そこにあの「二四九」番が燦然と輝いているではありませんか!

「ぎゃッ!」

私が何か叫びながら思いっきり飛び上がったのを今でも良く憶えています。

そうなんです。

奇跡的に、私は、辛くも丁稚奉公に行かなくて済んだのでした。
神は私を見捨てることなく、何とか無事に入所する手助けをしてくれたのです。
その中には、古谷一行君、峰岸徹君、河原崎建三君、大出俊君、鶴田忍君、
故太地喜和子さん等がいました。
私は彼等と一緒に第十六期生として、更に三年間の養成所生活を送ることになるのです。


 ここで話は一気に飛びますが、俳優座の養成所も卒業し、
それから更に十年ぐらい経ったある日、
私は、中学二年頃に経験した、不思議な出来事を突然ふッと思い出しました。

当時、近所の国分寺第三小学校というところで何気なく鉄棒をしていたら、
小学校五年ぐらいの男の子が、私の顔を見るなり
「あッ、この人俳優になる!」って叫んだんです。
それから目をつぶって何回か頷き、
「ウン、間違いない、テレビの中で動いている姿が見える・・・」

驚きながらも私が
「ねえ、幾つぐらいまでやってるかわかる?」
と聞くと
「ウゥ~ン、もう・・見えなくなるまでやってるよ、大丈夫だよ、ずうっとやってるから・・・」
「ああ、そう・・・」

思い出したことというのは、この少年の事です。

この少年は近所でも不思議な子供で通っていたらしく、回りにいた子供達も口々に
「こいつのいうことは本当に良く当たるんだぜ!」と昂奮していました。

 皆さん、もうお気付きでしょう。

受験番号「二四九」番の「縁起が悪い!」という私の予感は当たりませんでした。
しかし、小学校で会ったあの少年の言ったことは、当たっていると思います。
あの少年は、一体何なのでしょう

・・・やはり「予知能力を持った少年・・・!」


以来、私は、このての話を、頭から否定しないことにしています。