第 26 回           須 永  慶 

海外ロケ 《失ったものと得たもの》

 8月28日(水)、朝9:30
新宿スバルビル前集合出発。
快晴。

この日も朝から暑い。
みんな揃ってひとまず成田空港第2ターミナルへ。
収録番組は、
1970年3月31日我が国が初めて遭遇した
ハイジャック事件の真相に迫るドラマ番組です。
タイトルは「よど号ハイジャック 122時間の真相」。

しかし残念ながら9月23日、日本テレビ系列で放送は済んでいます。
ご覧になった方はいらっしゃいますか?再放送があれば良いのですが・・・。

若い人には馴染みが薄いかも知れませんが、
今日本では「よど号」や日朝首脳会談など北朝鮮に関係した記事が一杯です。
その意味では正に最適な企画番組だったでしょう。

僕の役は
「よど号」乗客で日野原重明(聖路加病院内科医長)という
非常に冷静沈着な人物でした。

実はこの方現在もお元気で、今年92歳ぐらいになられ、
執筆の傍ら全国を股に掛けての講演と・・・大変なご活躍と聞いています。

さて、空港で取り敢えずドルに換金、一路目的の国へ。

実はここで皆さんにお断りをしておかなければなりません。
ロケ地は諸般の事情があるらしく、制作サイドから伏せておいてくれ・・・と言われていますので、
仮にA国としておきます。
ご了承下さい。

約30分遅れて、18:30頃目的地A国に到着致しました。
夕方の時間だというのに、未だ辺りはさんさんと太陽が照っていて昼のように明るく、
フト上空を見ると、今まで日本では見たこともない綺麗な蒼色が広がっていました。
そこに淡い雲が微かにかかっていて・・・。

29日は諸準備と、夕方からスタッフキャスト揃っての食事会。
或る高級レストランで行ったんですが、
生演奏の音楽も入って仕事を始める前のとても楽しい一時でしたね。
20:00頃にレストランの窓が赤く夕日に染まり、21:30頃やっと暗くなって、
帰る頃夜空に星がとても綺麗に瞬いていました。

翌30日、いよいよ撮影開始です。

撮影現場となる空港に着くと、そこには舞台となるボーイング727型機が駐機していました。
有名な機種なので、何となく見覚えがあります。
エキストラも現地の人も混じって大勢揃っています。
一番初めのワンシーン、監督の力強い「OK!」という声と共に撮り終わると、
一気に昼食まで撮りが進んで行きました。
慣れというものは恐ろしいもので、この頃になると、
到着した時あんなにビックリしたこの国の周りの景色や気候などにも次第に慣れてきましたね。


☆失ったもの(事件発生!!)


8月31日。
この日、「気の緩み」・・・でもなかったんですが、僕にとっての大事件発生です・・・。
この日僕はオフでした。
で、仲間4人と朝から計画を立てて、あちこち観光見物や買い物などしようということになったんです。
初めは、ホテルから近い小高い丘に徒歩で登って街全体の絶景に感動したり、
危ないから乗ってはいけないという一般バスに乗ったりしました。
偶然、アジア大会の壮行会にも立ち会うことも出来たんですよ。
つまり初めての経験がずっと続いているわけですが、
デパートで換金しようという段になって、
矢張り初めて経験する思わぬ事件に遭遇してしまったのです。

デパートの4階に両替所があるので、ドルに換金しようと3階の階段を歩いている時、
何か異変を感じてズボンのポケットに手をやった時、
何と、
財布を抜き取る手とすれ違ったんです。
スリにやられたんです、財布ごと。
今にして思えば、何かもの凄く大勢の人間に囲まれてるな・・・というか、
混雑してるなここは・・・という感じはしていました。
相手は三人か、四人組ですね。
僕を狙って囲んでいたんでしょう、ずっと隙を伺いながら。
その後、デパートのセキュリティーも含め
色々現地の警察に犯人を捕まえて貰おうと被害届を出すべく手を尽くしましたが、
恐ろしいことに警察はこの事件を何だかんだと言って受け付けてくれませんでした。

英語は通じず、
勿論現地語もしゃべれないのに
デパート内を初め3カ所もの現地警察に行くことなど出来よう筈がありません。
それが出来たのは現地に素晴らしい人が居たからです。


☆得たもの!!


その人の名前は「ドルゴルマー」さん。
19歳の女子大生で日本語を選択、
A国と日本を結ぶ架け橋としてボランティア活動などをしている方だったのです。
まるで、自分のことのように心配して下さり、
交渉の矢面に立ってくれたり、遠く離れた警察署に同行してくれて、
その都度説明を僕の代わりにしてくれたという事なのです。
これは簡単に出来るようで、なかなか出来ることではないでしょう。

ドルゴルマーさんはとても優秀で、在籍大学から4人、
日本との交換留学生を選ぶんですが、その中に首席として選出されたということです。
異国でスリに会い財布もろとも取られるという困難な状況に陥っている見知らぬ日本人に対し、
日本に興味があるというだけでは出来ない
暖かい、ドルゴルマーさんからの心からの援助の手は、本当に有り難いものでした。

僕は財布を失いましたが、
同時に異国で、見知らぬ人から温かい気持ちで接して貰い、
失った以上に貴重なものを得ることが出来たということ。
また一緒にいた3人の仲間が、最後まで、嫌な顔一つしないで付き合ってくれたこと・・・
このことも得たものの1つです。

ドルゴルマーさん、みなさん、
どうも有り難うございます。

こうして苦労して撮った作品、
出来れば皆さんに見て貰いたかったですね。

さて色々ありましたが、
今回は海外ロケを通して「失ったもの」より「得たもの」の方がとても多かった!

お知らせ:9月28日
TBSTV21:00から
「陰の季節」4に出ますので良かったら皆さん、

見て下さい!