第13回



第 1 3 回

                                      須 永   慶


《女優さんの会話》

 今まで僕はそんなに永い間女優さんのグループの中に

ポツンと一人で居たという事はほとんどない。

別に逃げてる訳じゃないけど偶々無いのである。


ということは、

「普段、気の置けない女優さん同士がリラックスしている時の

何気無い会話はどんなものなのか」

よく知らないのである。

いや、正確に言うとそういう経験は全く無い訳じゃない、

私にだって女優さん同士のちょっと声を潜めたコチョコチョ話を聞いた事は

2、3回はある!

今回は偶然?そういう場面に遭遇した時の話を1つ。



 都内某テレビ局の化粧前で

当時結構売れていた2人の女優さんと同席した時のことである。

この日の撮影が何だったか今となってははっきり覚えていない、



番組名は・・・・忘れました。

いや!憶えていたとしてもちょっと書けないかな。

確か本隊が外でロケをしている最中で未だ局に帰って来ず、

〈メークさん待ち〉

の状態がしばらく続いていた状況だったと思う。



 ご両人のお年は、勿論正確ではないが傍でチラッと見たところ

「30ちょい過ぎ」



「50ちょい前」

と私は推察いたしました。

当初はご両人、それ程仲が良いとは思わなかったが、
後で知ったところによると、同じ事務所に所属していたらしい。

こういう場合、ある種の仲間意識は強く働くものです。



 その場所と状況は、化粧前で「鏡」が向かい合わせになっていて、

僕が鏡に向かうとお2人と背中合わせになる格好になります。

ですから顔をずらせば相手の「顔」がバッチリ見えますが、

この場合、

向こうも僕の「顔」がバッチリ見えてしまう!ということになる訳ですな。



「メークさん、遅いですね・・・」

とか何とか一通りの挨拶が済めば

後はエチケットとして目を合わせないようにするのが

この場合、普通でしょうねえ。

だから僕もジット自分の顔だけを見るようにしていました。

それで安心したのかどうか、ご両人、

しばらく無言でしげしげ御自分達の顔を見つめている雰囲気の後、

当然お肌とかお化粧とかの話になりました。

肌の衰えの話から始まって皺とかシミとかについても

声を潜めて色々ゴショゴショしゃべっていましたが、

「30ちょい過ぎ」の人が池袋の、

とある美容研究所に通ってお肌の手入れをしているという話になると、

くだんの「50ちょい前」の人が俄然その話に乗り出しました。


きっかけは一言

「そこの先生がとても親切で良い!」

ということと、鏡を通して見た

「30ちょい過ぎ」の女優さんの肌が

しっとりとしてとても綺麗に見えたからではないかと思います。

実際テレビ画面で見ても目元パッチリ、とてもカメラ写りの良い女優さんで

綺麗に見えていましたから。



その美容研究所の美容師さんは、
ご両人の会話の中では勿論「先生」と呼ばれ、

「先生、先生」

が連発され、

遂には「50ちょい前」の女優さんにとっても全然知らない筈なのに

「親切で優しい、既知」のような

「大先生」

のような扱われ方へと変化して行きました。



この頃になると「50ちょい前」の女優さんは、

『もうこうなったらどうしても紹介をして貰うんだ!』

という強い意志が僕の耳にも否応なく伝わってきました。

そうです、約束を取り付けるのに結構真剣になっていたんです。

何故なら

その「大先生」は誰でも見るわけではないということが分かったからです。

そしてそれはとどのつまり

「自分の肌の回復をその大先生に懸ける」

という意気込みに他なりません。

肌の衰え否、皺やシミが増えだしているということを

「大声」

で認めてしまっているのです、

それも僕の前で、否後ろで。



 僕は可哀想にもご両人の話に加わることも出来ず、

話の内容によって

鏡越しに顔をジックリ見てみたいという衝動に何度か駆られましたが、

「お顔」を拝見するなんてことは勿論出来ず、

そもそも「話を聞いている」という態度を取ることすら憚られるというのに、

そんな大それたことが出来るわけも御座いません。

ただひたすら台本を読んでいるような振りをしてしっかり

「聞き入っていた」ので御座います。



でも一体ご両人には、

すぐ後ろにいる私の存在をどのように感じていたのでしょうねえ。・・・

僕ほどには以外に気にならなかったというところなんでしょうかねえ。



 最後に1つ。

芝居をしながら飽くまでさりげなく極々自然にご両人の顔をジックリ見つめ、

「大先生」に関する話に僕が充分納得したことは・・・当然でした。

念のため。